バス運転手が主人公の映画「つぎとまります」レビュー

バスの運転手が、主人公の映画やドラマを観たことありますか?

同じ運転手系の職業で言えば、トラックやタクシーは良く出てきますよね。

トラック運転手の映画と言えば、なんといっても『トラック野郎」。最近のドラマなら、ファーストサマーウイカ主演の『私(あたい)のエレガンス』も、主人公はトラックドライバーです。

タクシードライバーは言わずもがなですが、数多くの作品で主人公の職業として描かれています。

若きマーティン・スコセッシ監督と、ロバート・デ・ニーロ最強タックの映画、題名そのままの『Taxi Driver』。リュック・ベッソンの大ヒット痛快コメディ映画『TAXi』。

ドラマシリーズなら、韓国『模範タクシー』、日本の名優・渡瀬恒彦の『タクシードライバーの推理日誌』、渋川清彦・主演の『ザ・タクシー飯店』、バカリズム脚本・竹野内豊主演『素敵な選TAXI』、カンニング竹山・主演『ねこタクシー』などなど枚挙にいとまがありません。

ところがです。バス運転手の主人公みたことありますか?

バナナマンの日村勇紀の『ひむバス』は面白いですが、日村さんの免許は中型自動車免許かと思います。バス運転手と言えば、やはり大型免許をもった主人公じゃないと(笑

そうなんです、バス運転手を主人公にした作品が少なすぎるのです!

もっと、バス運転手をとりあげてくれ!、地域の交通インフラを担う大事な仕事やぞ!、すいませんつい熱くなってしまいました。

そんな中、バス運転手をど真ん中に置いた、胸アツの作品が『つぎとまります』。2024年問題で何かと話題になったバス業界の動きに、シンクロするように2024年秋の公開。

キャストが知らない人ばかりとか、上映館が少ないとか、言ってはいけません。だって、主人公がバスの運転手ですぞ!上映した館は、連日満員だったとか。

まえ置きが長くなりましたが、DVDを入手したのでさっそく観賞しましょう。

映画「つぎとまります」基本情報

  • 劇場公開日:2024年10月5日
  • 上映時間:70分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ/ファンタジー
  • 配給:パンドラ
  • 監督・原案:片岡れいこ

主なキャスト

  • 保津川美南(ほづがわ みなみ):秋田汐梨*
  • 沓掛守(くつかけ まもる):川合智己
  • 鹿谷マチ子:三島ゆり子

*雑誌『nicola』専属モデル→集英社「Seventeen」専属モデル。2017年女優デビュー。スターダスト所属。

あらすじ

京都・亀岡市を舞台に、バス運転士を目指す若き女性・主人公:保津川美南(秋田汐梨)の成長を描く物語。子どもの頃からの夢を胸に、地元のバス会社に就職した美南は、失敗を重ねながらも、仲間や乗客との出会いの中で少しずつ成長していきます。

困難に出会うと現れる、憧れの“運転手さん”の存在が物語を支えます。”運転手さん”は霧の中に現れる実在ではない存在。地域交通の厳しい状況を舞台装置として、現実と幻想が交差する中、西日本を襲う豪雨災害がクライマックスを迎えます。美南は運転士として、そして一人の人間として成長する物語。

なお、映画の本筋とはそれますが、バス業界は深刻な人手不足に陥っており、免許の取得要件の緩和や取得への助成を行うなどし、若者や女性の入職を促しています。女性運転士の就労者数は2,490人とまだまだ少なく、バス運転手全体の2.6%にすぎません(2024年賃金構造基本統計調査)。主人公:美南が就職したバス会社も、ほとんどが男性運転手です。

主人公は、女性新人運転手の美南ですが、なんといっても一番興味深いのは憧れの”運転手さん”として、重要な場面で登場する「沓掛守(くつかけ まもる)」です。沓掛守の名前を読み解くと、いっそうこの映画の深みにはまります。

沓掛守(くつかけまもる)の名前の象徴性

地名『沓掛(くつかけ)』が持つ象徴性

(1)交差点・分岐点の象徴

交通の交差点=「出会いと導き」の象徴

沓掛は、京都府亀岡市に実在する地名で、古くからの交通の要衝です。古くは「唐櫃越(からとごえ)」と呼ばれる峠道(どうげみち)で、参勤交代路の経路として活用されていました。現代では、京都第二外環状道路の開通(2013年)により、京都縦貫自動車道が名神へつながり、交通のハブとなっています。

峠道「唐櫃越(からとごえ)」は、軍隊や旅人が峠を越えてきた“分岐点”であり、「沓(くつ)を掛けて休む」(旅の中継地)ことから、沓掛(くつかけ)という地名になったそうです。諸説あり。

これは、主人公・美南が「迷い」「立ち止まり」「再び進む」という心理的変遷を経る場面と重なります。美南の支えとなった、運転手:沓掛は、人生の節目(中継地)に現れ成長を誘う導き手(mentor archetype)なのです。

(2)地域性と忘れられつつある風景の象徴

沓掛という地域は、近年のインフラ整備により利便性が高まった一方で、かつての農村風景や地元交通インフラが姿を変えつつある地域でもあります。

運転手:沓掛守は、失われつつある「地域交通の誇り」を内包したたキャラクターであり、主人公:美南とそれをみている観客に「本当に大事なものとは何か」を静かに問いかけているのではないでしょうか。

乗客の減少や人員不足に直面する地方バス会社の厳しい現実を踏まえながらも、運転手:沓掛守は“理想の記憶”として描かれ、主人公委:美南が、仕事に誇りを持てるよう導きます。

「沓掛」のエリアの記憶を舞台的に想起させることで、物語により味わいをもたらしています。

“守”という名前の組み合わせが意味するもの

「守(まもる)」という名は、運転士としての使命“人を安全に運び、地域を守る”という役割と直結しています。「沓掛 守」(くつかけ まもる)という組み合わせを直訳すれば、「交差点(沓掛)で出会い、導き、守る者」となるわけです。

劇中で運転手:沓掛守は、深い霧の中に現れる“幻の運転士”(=外的実在性ではない)でありながら、困難なときに美南の前に現れ、心の支えとなります。彼は、人生の岐路に現れ、正しい方向へ“進む勇気”をくれる内的な導き手なのです。

まとめ「沓掛 守」(くつかけ まもる)という名が示すもの

「沓掛 守」は単なる登場人物ではなく 、”地域の記憶個人の理想を繋ぐ 架け橋として機能しているわけです。

「沓掛 守」の苗字・名前は、複数の意味を凝縮して担うシンボリックなキャラクター名として、作品の核を形づくっていると言えます。

「沓掛 守」の名前の角度から、『つぎとまります』の面白さポイントの1つの見方を紹介しました。

全体としては、凛々しい若い主人公:美南の成長譚であり、バス運転手を主人公にした貴重な映画です。運転前点呼のあるある小噺(蒸しパンでアルコール検知器が発動!)あり、常連客との交流ありのエンタメ作品です。ぜひ、機会があればご覧ください。

上映スケジュール・劇場情報

2024年の主要上映劇場
  • 京都シネマ:9/13〜11/28
  • ユーロスペース(渋谷):10/5〜10/18
  • 宝塚シネ・ピピア:11/15〜11/21
  • 十三シアターセブン:11/4上映
2025年の上映情報
  • 2月16日:亀岡市制70周年事業として再上映決定
  • 3月9日:富山県での上映会開催
  • 5月24日〜30日:横川シネマ(広島)での1週間限定上映
  • 6月21日:宮崎キネマ館での九州上陸上映(全席500円)

映画館での上映はもう終わってしまいましたが、バス会社さんにて上映会などを催すことは可能なようですので、興味があれば条件を問合せてみてください。

▲公式X:https://twitter.com/tsugitomarima

▲公式サイト:http://www.a-nicola.com/movie/