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映画『つぎとまります』の主人公が現実に? 十勝バスに現れた19歳の女性バス運転士
2024年に公開された映画『つぎとまります』(監督・原案:片岡れいこ)。
京都・亀岡を舞台に、子どもの頃からバス運転士に憧れていた若い女性・保津川美南がバス会社に入り、新人運転士として失敗を重ねながら成長していく物語です。
主演は秋田汐梨さん。実際のバス会社や路線も登場し、バス運転士という仕事の日常を描いた作品でした。
「こんな若い女性バス運転士は、地方のバス会社にはなかなかいないよね」と思うわけですが、なんと実際にいました。北海道・帯広市の十勝バスで、プロのバス運転士を目指して研修を受けてきた那須真梨愛 さん(19歳:取材時)。
STV札幌テレビの『どさんこワイド179』が、そのデビューまでを追いかけています。
始まりは「バスのボタンを押してみたい」
那須さんがバス運転士を目指すようになったきっかけが、これまた面白い。高校生のとき、会社見学で十勝バスを訪れ、バスの運転席に座らせてもらったそうです。
大型バスの運転席には、普通の乗用車にはないスイッチやボタンがずらりと並んでいます。
それを見て、「いろんなボタンを押してみたい」と思った。そこが始まりでした。
大きなバスを動かしてみたい。たくさん並んでいるボタンを触ってみたい。そんなワクワクから始まって、本当にバス会社に入り、大型二種免許の取得に挑戦することになります。
もちろん、実際の教習はワクワクだけでは乗り切れません。10メートルを超える大型車で、鋭角や縦列駐車といった課題があります 。
STVの番組では、検定前に自信がないと緊張する場面も。それでも本番では、見事に一発合格!
免許取得後の十勝バスでの研修では、今度はベテラン運転士からプロとしての厳しい指導を受けます。たとえば、バス停への「幅寄せ」。普通車なら少しくらい縁石から離れて止まっても大きな問題にはなりません。しかし路線バスは違います。
教官から、
「これではお年寄りや足の不自由な方が、一度道路に足を下ろさなければならない」
と厳しく指摘されます。
次の停留所では見事に修正。さっきできなかったことが、次のバス停ではできる。
まさに新人バス運転士の成長物語です。
19歳で大型二種免許を取れるのか?
もともと大型二種免許は、原則21歳以上かつ普通免許などの保有期間が3年以上でなければ受験できませんでした。
それが、2022年5月に制度が改正され、「受験資格特例教習」を修了すれば、19歳以上かつ普通免許などを取得してから1年以上で、大型2種免許試験を受けられます。もともと想定されていた、運転経験で身につく危険予測・回避能力を、特別な教習で補う仕組みです。
単に「人手不足だから年齢を19歳に2歳分下げました」という話ではありません。この制度変更の意味は大きく、単に年齢の数字を2歳下げたというだけのものではありません。
高校を卒業した若者が、
18歳:普通免許取得 → 19歳:大型二種免許取得 → バス運転士へ
というキャリアを選べるようになったからです。
高校卒業後の就職のタイミングで、若いうちからバス運転士を目指せるキャリアパスが現実になったわけです。
大型ニ種免許の取得については、こちらの解説記事をご覧ください
▶バス運転手の免許は大型二種が必要!取得方法や費用、免許取得制度について徹底解説
女性ドライバーは珍しいのか?
もう一つ注目したいのが「女性」です。
残念ながら、バスの女性運転手の全数調査のデータはないのですが、目安になるいくつかの統計データがあります。
・『令和7年賃金構造基本統計調査』:2025年厚生労働省
男性バス運転手は10万3,710人なのに対し、女性はたったの3,080人。全国の女性バス運転手の割合は、約2.9%にとどまります。
2021年7月:公益社団法人日本バス協会 会員事業者アンケート 女性人数:2,128人(内訳:乗合1,726人/貸切402人)
※WEB『バスのお仕事』内データ 車両数10両以上の会員バス会社(1,437社)を対象とした実態アンケート。小規模バス会社が含まれていません。
・『令和7年版 交通政策白書』:2025年版(2023年度実態)国土交通省
女性人数:約1,700〜1,800人規模(比率:1.6%)
※国土交通省の事業者調査等を基に算出。分母に整備士や事務員などバス業界の全従業員が含まれています。
全数調査ではないので、対象の統計上のブレは生じますが、女性バス運転手の数は、2000人〜3000人程度といったレンジかと思います。
男性のバス運転手が10万人規模ですので、いかに女性ドライバーが少ないかがわかります。
那須さんの場合、「19歳」×「女性」×「大型バス」という、これまでのバス業界ではなかなか見られなかった世代の運転士なのです。
※女性バス運転手について詳しくはこちら
▶女性バス運転手は約2.6%!少ない理由や給料差を解説
映画の主人公が、現実のバス会社に現れた
『つぎとまります』の主人公・保津川美南は、バス会社に就職し、個性豊かな先輩や乗客に囲まれながら、失敗を繰り返して、一人前の運転士になっていきます。
もちろん、映画と那須さんの人生は別物ですが、
若い女性がバス会社に入る。
大きなバスを初めて操る。
ベテランから教えられる。
失敗する。
そして次には、少しうまくなる。
その姿は、不思議なくらい映画の主人公と重なります。
さらに那須さんには、ちょっと出来すぎた「続編」のようなエピソードがあります。
地元の高校生が十勝バスへ職業体験に来たとき、今度は那須さんが高校生を案内しました。
自分が研修しているバスに乗せ、運転席にも座らせる。少し前まで高校生だった那須さん自身が、十勝バスの運転席に座り、「このボタンを押してみたい」と思ったその場所です。
今度は、自分が次の高校生をそこへ座らせる側になりました。
その高校生の中から、数年後、「そういえば、十勝バスで運転席に座らせてもらったな」とバス会社の門をたたく人が出てくるかもしれません。
バス業界では、運転士不足、高齢化、減便、路線廃止という話が続いています。もちろん、19歳の運転士が一人誕生したからといって、その問題が解決するわけではありません。
それでも、こうして若い運転士が実際に誕生することは、バス業界の明日につながっていきます。
きっかけは、
「このバス、運転してみたい」
「このボタン、押してみたい」
という、素朴な気持ちから始まるのも素敵です。
映画『つぎとまります』では、若い女性バス運転士の成長が物語として描かれました。
そして十勝では、その物語を地で行くような19歳の運転士が、本物の大型バスのハンドルを握り始めています。
映画なら、ここでエンドロール。
でも、那須真梨愛さんの場合は、ここからが本編です。
次の停留所、その次の停留所へ。
「つぎ、とまります」
その言葉を乗客に届ける仕事が始まっています。
バスを運転してみたいかも
ちょっとバスの運転興味あるかもと思った人がいたなら、その気持ちも立派な第一歩です。
バス運転士になる人が、最初から「子どもの頃からの夢」を持っている必要はありません。大型車を運転してみたい、地域を走る仕事に少し興味がある、そんなところから始めてもいい。
現在は、未経験者の大型二種免許取得を支援する「支援制度」を設けているバス会社が増えています。
那須さんが「このボタンを押してみたい」と思ったように、少しでもバスの運転席が気になったなら。
まずは、どんなバス会社があるのか、のぞいてみてください。
