「バス運転手 やめとけ」と検索するのをやめとけ!~検索に振り回されない“自分軸のしごと選び”

転職活動、就職活動は、未来への期待と同時に大きな不安を伴うものです。「この職種は、きついらしいけど大丈夫なの?」「もしブラック企業だったらどうしよう…」。そんな不安から、私たちはごく自然に、Googleの検索窓に「〇〇(職種名)+やめとけ」「〇〇+ブラック」といったキーワードを打ち込んでしまいます。
一見すると、これは賢明なリスク回避行動のように思えます。しかし、行動科学の研究によれば、このネガティブな情報を優先的に探す行為こそが、かえって適切なキャリア選択を遠ざけてしまう危険性をはらんでいるのです。
先に結論を、「バス運転手 やめとけ」と検索するのは、ほどほどに!
1.「職種名+やめとけ」の検索は、バス運転手だから検索されているのか?
そもそも「バス運転手 やめとけ」という話は、バス運転手だから言われる話なのでしょうか?
そこで、実際にGoogleで検索されているキーワードを調べてみることにしました。すると、あらゆる職種・職業で、「職種名+ネガティブワード」の組み合わせで検索がされていました。思いつくまま、職種・職業とネガティブワードの組み合わせを、Googleのデータから拾ってみました。Googleで検索されたネガティブワードで、検索数の多いものを拾いました。

バス運転手だろうと、弁護士だろうろ、公務員だろうと、はたまたコンサルだろうと、あらゆる職種名で、ネガティブワードとの組み合わせで検索されていることがわかります。
共通して登場するネガティブワード
- 将来性:やめとけ、オワコン
- 感情面:やめたい、つらい、つまらない
- 労働環境:きつい、激務、ブラック、長時間労働
- 待遇面:給料安い、稼げない、食えない
もちろん、特定の職種や職業によって、異なるキーワードが登場することもあります。例えば、公務員は、安定性が人気な一方で、「つまらない」といった検索が多いですし、専門性の強い弁護士は「儲からない」といった稼ぎに関わる検索が多かったりもします。コンサル「家族崩壊」もパンチが効いています。
いずれにせよ、登場するネガティブなキーワードの顔ぶれは、職業・職種に関わらず、かなり共通してみられます。つまり、その職業・職種が良いとか悪いとかいう話ではなく、いまから転職する・就職するというその人がおかれた状況が、ネガティブワードでの検索を誘っているわけです。
声を大にして言います、バス運転手(職業・職種)が悪いんじゃない!
2.ネガティブワードでの検索は、人間の脳のクセ
ネガティブワードでの検索行動が意味しているのは、
[ネガティブ検索されている] =[その職種がヤバイの証拠]
でもなんでもなく、人間の心理的な脳のクセによるものに過ぎません。検索窓に「○○ やめとけ」と打ち込むのは、とても“自然”な心理的な反応です。
でも、この自然な反応が、良い結果を招けば良いのですが、むしろ不味い結果を招く傾向にあります。
不味い結果を招くのは大きく2つの問題があるからです。①バイアス(ものの見方のかたより)という心理的なメカニズムの問題と、②ネットに落ちている情報の偏りの問題です。

①バイアスの問題
いくつかの偏った見方をすることによって、適切な判断ができずに、せっかくのチャンスを逃したり、何もしないまま身動きが取れなくなったりするという問題です。バイアスには、いくつかの種類が知られています。
●損失回避バイアス
得られるメリットよりも、失敗の痛みをより強く避ける傾向にあります。
→デメリットが過大評価されて、せっかくの転職チャンスを逃すことにもつながる
●ネガティビティ・バイアス
人間は本能的に、危険情報により敏感に反応します。ポジティブな情報とネガティブな情報では、ネガティブな情報の方が、何倍も影響力があると言われています。
→ネガティブな情報が、強調されて記憶に残るので、必要以上にネガティブに考えてしまい、適切な判断ができなくなる
●確証バイアス
すでに抱いている不安や不満を裏付ける情報を無意識に集めてしまう傾向があります。
→ダメな情報ばかりを集めてしまうので、「やっぱりこの業界だめじゃん」と短絡的に考えがち
●利用可能性ヒューリスティック
極端な例や炎上例が記憶に強く残ってしまい、その強い印象に引っ張られて適切な判断ができなくなる
→特殊に酷い1つの事例をSNSで目にして、「やっぱりこの業界だめじゃん」と考えがち
②ネット情報の偏り問題
2番目の問題は、WEBサイトやSNSに落ちている情報が、かなり偏っているという問題です。
俗に言う「声の大きさ問題」です。
声が大きく聞こえるのは、不満じゃない人は何も情報発信しない傾向にあることと、SNSを提供するプラットフォマー側の操作(アルゴリズム)に起因します。
●不満 VS. 不満を持ってない人
・不満を持つ人:積極的にSNSや掲示板で発信しがち ←声が大きい!
・別に不満をもっていない人:何も情報発信しない
●退職者 VS. 続けている人
・退職者:経験を語りがち ←声が大きい!
・続けている人:(忙しいし)何も情報発信しない
さらに、SNSのアルゴリズムが、声を拡声してしまうので、より深刻になります。
この現象はフィルターバブルと呼ばれるのですが、SNSの滞在時間を伸ばすために(そのことによって運営会社が儲けるために)ユーザーの関心をひく情報ばかりを表示し、異なる意見があることを隠してしまうのです。一度、何かの情報を閲覧すると、その系統の情報ばかりが流れてくるのを経験したことがあるかと思います。
こうして、偏りがちな心理的な感情の動きや、偏った情報に触れることによって、人生のそのタイミングにおける適切な意思決定ができずに、よくない結果を招く可能性があるわけです。
したがって、繰り返しになりますが、色々なバイアスや偏った情報に過剰に触れることになりますので、「バス運転手 やめとけ」で検索するのは、ほどほどにしましょう!

3. 「自分で決めた」という感覚がその後の幸福度に繋がる
仕事における長期的な幸福感は、所得や学歴といった客観的な条件よりも、「自己決定」の感覚によって強く左右される――。これは、西村・八木による2万人の日本人を対象とした大規模調査が導き出した結論です*。
*参考:西村和雄・八木匡 (2018).「幸福感と自己決定―日本における実証研究」経済産業研究所, RIETI Discussion Paper Series 18-J-026.
この研究では、人々の幸福感を決定づける要因が分析されました。
- 幸福感に影響を与える要因として、健康や人間関係に次いで影響が大きかったのは「自己決定」であった。
- この「自己決定」の影響力は、「所得」や「学歴」よりも有意に強かった。
- 具体的には、進学先や就職先を他人の意見に流されるのではなく、最終的に自分の意思で決めた人ほど、その後の人生における幸福度が高い傾向にあった。
なぜ自己決定がこれほど重要なのでしょうか。研究によれば、自分の意思で選択することは、その行動に対する内的な「動機付け」と、結果に対する「満足度」を著しく高めるからです。この動機付けと満足度こそが、幸福感の源泉なのです。
「職種+やめとけ」検索に過度に依存することは、この最も重要な「自己決定感」を損なう行為です。ネット上の匿名の不満や批判を意思決定の主軸に据えることは、事実上、他人に自分のキャリアの舵取りを委ねているのと同じです。たとえその結果、客観的に良い条件の職に就けたとしても、心のどこかで「あの口コミを避けるために選んだだけだ」という感覚が残り、長期的な満足感や仕事へのエンゲージメントを低下させるリスクがあるのです。
4. 自分で決める時のコツ
では、転職・就職に際して情報を探索するときに何に気をつければ良いのでしょうか?
事実と感想を分けて考えよう
SNSの“強い言葉”は印象に残りやすく刺激的ですが、実態の把握には向きません。重要なのは、ネットに落ちているその情報が、人の感想の話なのか、起きている事実の話なのかを、わけてとらえることです。
多くの情報は、情報発信者が抱いた感情を表現した感想にすぎません。もちろん、体験した人の貴重な体験談ですが、その人の価値観が感じた感想です。あなたとは、置かれている状況も、大事にしていることも違うかもしれません。
刺激的な感想の表現に引っ張られずに、参考にする程度にとどめ、事実を冷静にチェックしてください。
そして、事実をチェックして判断する時にポイントとなるのが、何と比較するかという点です。
たとえば「休みが少ない」とか、「給料が安い」は、何と比べて少ない・安いといっているのか?
人は何かを判断するとき、基本的に、無意識に、過去の経験や何かと比較して良い・悪いを決めています。今、自分が何と比較して考えているかを、意識するだけで視界がグッと良くなります。
目的に役立つ情報収集をしよう
情報収集”を、不安感を増幅してしまう検索から目的に役立つ検索へと切り替えましょう。
STEP1:
まず、あなたが面白いと感じるポイントを書き出します。運転そのものへの憧れ、人に喜ばれる瞬間、技術を磨く快感、居心地の良さ――どれがより強いですか?
STEP2:
次に、最低限クリアしてほしい条件を数字で書き出します。年収、年間休日、拘束時間、研修体制など、最低限のラインだと思う条件を、書き出しましょう。単純に好きだとか、憧れとか、家から近いからとか、感覚的なことも大事にしつつ、条件面を数字で固めていきます。
好き→条件の裏取り→自己決定
の順番で進めると良いでしょう。
「やめとけ」と打ちたくなったときほど、深呼吸をひとつ。あなたが本当に知りたいことを、言葉にしてみてください。仕事内容の手触りか、働く人のリアルか、数字の裏付けか。それが定まれば、検索はあなたの味方です。最後に決めるのは検索結果ではなく、あなた自身。その選択は、年収よりもずっと強く、あなたの幸福に効いてくることでしょう。
最後に、もう一度。「バス運転手 やめとけ」で検索するのは、ほどほどにしましょう!
🚌おまけ
「バス運転手+ポジティブワード」の検索もちゃんとありますよ。
- バス運転手 かっこいい
- バス運転手 楽しい
- バス運転手 すごい
- バス運転手 優しい
- バス運転手 面白い
実際にGoogleで検索されているキーワードです。かっこいいは、イケメンのことではありませんよ、バス運転手は「かっこいい」んです!
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